児童養護施設運営指針、何度も見返しちゃう!「第Ⅰ部 総論」の要点!

後回しにしがちな運営指針ですが、実は初めに学習してしまうと施設の様子がわかりやすく、他にも応用できるのです。

運営指針自体はボリュームがありますが、難しい内容ではないので、要点だけ読めば短時間で読み終わってしまいます。

さらには、岡山孤児院十二則などとのつながりもわかるようになっており、施設の理解を深めることができます。

ハンドブックがありますが読まなくてよいでしょう。

キーワード

  • 説明責任(第三者評価)を果たす
  • 地域の中核的存在となる
  • 個別化して配慮
  • 「あたりまえの生活」を保障
  • 「安心して自分をゆだねられる保護者」
  • 癒しや回復をめざした専門的ケアや心理的ケア
  • 帰属意識を持つことができる存在
  • 家族や親族、友達との分離なども経験
  • 特定の養育者による一貫性のある養育
  • 職員の人材の育成・確保が重要な課題
  • 障害児への医療や他の福祉サービスの利用
  • 高校中退者などの入所を継続
  • 児童心理治療施設からの措置変更後は前入所施設に再措置
  • 子ども同士の関係に留意
  • 「生まれてきてよかった」と思わせる

1.目的

1.目的

・この「運営指針」は、児童養護施設における養育・支援の内容と運営に関する指針を定めるものである。社会的養護を担う児童養護施設における運営の理念や方法、手順などを社会に開示し、質の確保と向上に資するとともに、また、説明責任を果たすことにもつながるものである。

第三者評価の記事はこちら

・この指針は、そこで暮らし、そこから巣立っていく子どもたちにとって、よりよく生きること(well-being)を保障するものでなければならない。また社会的養護には、社会や国民の理解と支援が不可欠であるため、児童養護施設を社会に開かれたものとし、地域や社会との連携を深めていく努力が必要である。さらに、そこで暮らす子どもたちに一人一人の発達を保障する取組を創出していくとともに、児童養護施設が持っている支援機能を地域へ還元していく展開が求められる。

・家庭や地域における養育機能の低下が指摘されている今日、社会的養護のあり方には、養育のモデルを示せるような水準が求められている。子どもは子どもとして人格が尊重され、子ども期をより良く生きることが大切であり、また、子ども期における精神的・情緒的な安定と豊かな生活体験は、発達の基礎となると同時に、その後の成人期の人生に向けた準備でもある。

・この指針は、こうした考え方に立って、社会的養護の様々な担い手との連携の下で、社会的養護を必要とする子どもたちへの適切な支援を実現していくことを目的とする。

2.社会的養護の基本理念と原理

2.社会的養護の基本理念と原理

(1)社会的養護の基本理念

①子どもの最善の利益のために

・児童福祉法第1条で「すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。」と規定され、児童憲章では「児童は、人として尊ばれる。
児童は、社会の一員として重んぜられる。児童は、良い環境の中で育てられる。」とうたわれている。

・児童の権利に関する条約第3条では、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。」と規定されている。

・社会的養護は、子どもの権利擁護を図るための仕組みであり、「子どもの最善の利益のために」をその基本理念とする。

②すべての子どもを社会全体で育む

・社会的養護は、保護者の適切な養育を受けられない子どもを、公的責任で社会的に保護・養育するとともに、養育に困難を抱える家庭への支援を行うものである。

・子どもの健やかな育成は、児童福祉法第1条及び第2条に定められているとおり、すべての国民の努めであるとともに、国及び地方公共団体の責任であり、一人一人の国民と社会の理解と支援により行うものである。

・児童の権利に関する条約第20条では、「家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。」と規定されており、児童は権利の主体として、社会的養護を受ける権利を有する。

・社会的養護は、「すべての子どもを社会全体で育む」をその基本理念とする。

(2)社会的養護の原理

社会的養護は、これを必要とする子どもと家庭を支援して、子どもを健やかに育成するため、上記の基本理念の下、次のような考え方で支援を行う。

①家庭的養護と個別化

・すべての子どもは、適切な養育環境で、安心して自分をゆだねられる養育者に よって、一人一人の個別的な状況が十分に考慮されながら、養育されるべきである。

・一人一人の子どもが愛され大切にされていると感じることができ、子どもの育ちが守られ、将来に希望が持てる生活の保障が必要である。

・社会的養護を必要とする子どもたちに「あたりまえの生活」を保障していくことが重要であり、社会的養護を地域から切り離して行ったり、子どもの生活の場を大規模な施設養護としてしまうのではなく、できるだけ家庭あるいは家庭的な環境で養育する「家庭的養護」と、個々の子どもの育みを丁寧にきめ細かく進めていく「個別化」が必要である。

②発達の保障と自立支援

・子ども期のすべては、その年齢に応じた発達の課題を持ち、その後の成人期の人生に向けた準備の期間でもある。社会的養護は、未来の人生を作り出す基礎となるよう、子ども期の健全な心身の発達の保障を目指して行われる。

・特に、人生の基礎となる乳幼児期では、愛着関係や基本的な信頼関係の形成が重要である。子どもは、愛着関係や基本的な信頼関係を基盤にして、自分や他者の存在を受け入れていくことができるようになる。自立に向けた生きる力の獲得も、健やかな身体的、精神的及び社会的発達も、こうした基盤があって可能となる。

・子どもの自立や自己実現を目指して、子どもの主体的な活動を大切にするとともに、様々な生活体験などを通して、自立した社会生活に必要な基礎的な力を形成していくことが必要である。

③回復をめざした支援

・社会的養護を必要とする子どもには、その子どもに応じた成長や発達を支える支援だけでなく、虐待体験や分離体験などによる悪影響からの癒しや回復をめざした専門的ケアや心理的ケアなどの治療的な支援も必要とる。

※ 回復をめざした支援は、心理療法担当職員の主な業務内容です。

・また、近年増加している被虐待児童や不適切な養育環境で過ごしてきた子どもたちは、虐待体験だけでなく、家族や親族、友達、近所の住人、保育士や教師など地域で慣れ親しんだ人々との分離なども経験しており、心の傷や深刻な生きづらさを抱えている。さらに、情緒や行動、自己認知・対人認知などでも深刻なダメージを受けていることも少なくない。

・こうした子どもたちが、安心感を持てる場所で、大切にされる体験を積み重ね、信頼関係や自己肯定感(自尊心)を取り戻していけるようにしていくことが必要である。

④家族との連携・協働

・保護者の不在、養育困難、さらには不適切な養育や虐待など、「安心して自分をゆだねられる保護者」がいない子どもたちがいる。また子どもを適切に養育することができず、悩みを抱えている親がいる。さらに配偶者等による暴力(DV)などによって「適切な養育環境」を保てず、困難な状況におかれている親子がいる。

・社会的養護は、こうした子どもや親の問題状況の解決や緩和をめざして、それに的確に対応するため、親と子に、親を支えながら、あるいは親に代わって、子どもの発達や養育を保障していく包括的な取り組みである。

家庭支援専門相談員の記事はこちら

⑤継続的支援と連携アプローチ

・社会的養護は、その始まりからアフターケアまでの継続した支援と、できる限り特定の養育者による一貫性のある養育が望まれる。

児童相談所等の行政機関、各種の施設、里親等の様々な社会的養護の担い手が、それぞれの専門性を発揮しながら、巧みに連携し合って、一人一人の子どもの社会的自立や親子の支援を目指していく社会的養護の連携アプローチが求められる。

・社会的養護の担い手は、同時に複数で連携して支援に取り組んだり、支援を引き継いだり、あるいは元の支援主体が後々までかかわりを持つなど、それぞれの機能を有効に補い合い、重層的な連携を強化することによって、支援の一貫性・継続性・連続性というトータルなプロセスを確保していくことが求められる。

・社会的養護における養育は、「人とのかかわりをもとにした営み」である。子どもが歩んできた過去と現在、そして将来をより良くつなぐために、一人一人の子どもに用意される社会的養護の過程は、「つながりのある道すじ」として子ども自身にも理解されるようなものであることが必要である。

⑥ライフサイクルを見通した支援

・社会的養護の下で育った子どもたちが社会に出てからの暮らしを見通した支援を行うとともに、入所や委託を終えた後も長くかかわりを持ち続け、帰属意識を持つことができる存在になっていくことが重要である。

・社会的養護には、育てられる側であった子どもが親となり、今度は子どもを育てる側になっていくという世代を繋いで繰り返されていく子育てのサイクルへの支援が求められる。

・虐待や貧困の世代間連鎖を断ち切っていけるような支援が求められている。

(3)社会的養護の基盤づくり

・社会的養護は、かつては親のない、親に育てられない子どもを中心とした施策であったが、現在では、虐待を受けた子ども、何らかの障害のある子ども、DV被害の母子などが増え、その役割・機能の変化に、ハード・ソフトの変革が遅れている。

・社会的養護は、大規模な施設養護を中心とした形態から、一人一人の子どもをきめ細かく育み親子を総合的に支援していけるような社会的な資源として、ハード・ソフトともに変革していかなければならない。

・社会的養護は、家庭的養護を推進していくため、原則として、地域の中で養育者の家庭に子どもを迎え入れて養育を行う里親やファミリーホームを優先するとともに、児童養護施設、乳児院等の施設養護も、できる限り小規模で家庭的な養育環境(小規模グループケア、グループホーム)の形態に変えていくことが必要である。

・また、家庭的養護の推進は、養育の形態の変革とともに、養育の内容も刷新していくことが重要である。

・施設は、社会的養護の地域の拠点として、施設から家庭に戻った子どもへの継続的なフォロー、里親支援、社会的養護の下で育った人への自立支援やアフターケア、地域の子育て家庭への支援など、専門的な地域支援の機能を強化し、総合的なソーシャルワーク機能を充実していくことが求められる。

・ソーシャルワークとケアワークを適切に組み合わせ、家庭を総合的に支援する仕組みづくりが必要である。

・社会的養護の役割はますます大きくなっており、これを担う人材の育成・確保が重要な課題となっている。社会的養護を担う機関や組織においては、その取り組みの強化と運営能力の向上が求められている。

児童養護施設

3.児童養護施設の役割と理念

3.児童養護施設の役割と理念

・児童養護施設は、児童福祉法第41条の規定に基づき、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設である。

・また、第48条の2の規定に基づき、地域の住民に対して、児童の養育に関する相談に応じ、助言を行うよう努める役割も持つ。

・児童養護施設における養護は、児童に対して安定した生活環境を整えるとともに、生活指導、学習指導、職業指導及び家庭環境の調整を行いつつ児童を養育することにより、児童の心身の健やかな成長とその自立を支援することを目的として行う。

・生活指導は、児童の自主性を尊重しつつ、基本的生活習慣を確立するとともに豊かな人間性及び社会性を養い、かつ、将来自立した生活を営むために必要な知識及び経験を得ることができるように行う。

・学習指導は、児童がその適性、能力等に応じた学習を行うことができるよう、適切な相談、助言、情報の提供等の支援により行う。

・職業指導は、勤労の基礎的な能力及び態度を育てるとともに、児童がその適性、能力等に応じた職業選択を行うことができるよう、適切な相談、助言、情報の提供等及び必要に応じ行う実習、講習等の支援により行う。

※ 職業訓練は、(岡山孤児院十二則 実業主義)からきています。

※ 生活指導、学習指導、職業訓練は、特に児童指導員および保育士の業務内容です。

・家庭環境の調整は、児童の家庭の状況に応じ、親子関係の再構築等が図られるように行う。

4.対象児童

4.対象児童

(1)子どもの特徴と背景

①複雑な背景

・児童養護施設における入所理由は、父母の死別又は生死不明の児童、父母から遺棄された児童など保護者のない子どもは一部に過ぎず、半数以上は保護者から虐待を受けたために保護された子どもであり、次に、親の疾患、離婚等により親の養育が受けられない子どもも多い。

入所理由の記事はこちら

・また、子どもの入所理由の背景は単純ではなく、複雑・重層化している。ひとつの虐待の背景をみても、経済的困難、両親の不仲、精神疾患、養育能力の欠如など多くの要因が絡み合っている。そのため、入所に至った直接の要因が改善されても、別の課題が明らかになることも多い。

・こうしたことを踏まえ、子どもの背景を十分に把握した上で、必要な心のケアも含めて養育を行っていくとともに、家庭環境の調整も丁寧に行う必要がある。

②障害を有する子ども

・虐待は閉ざされた養育空間の中で、子育てに行き詰ったときに発生することが多く、発達上に問題を抱える子どもであれば、そのリスクはさらに高まることが指摘されている。

・障害を有する子どもについては、その高い養護性にかんがみて、障害への対応も含めて最大限の支援を行うことが必要である。その場合、医療や他の福祉サービスの利用など関連機関との連携が欠かせない。

(2)子どもの年齢等

①年齢要件と柔軟な対応

・児童養護施設は、乳児を除く18歳に至るまでの子どもを対象としてきたが、特に必要がある場合は乳児から対象にできる。

・また、20歳に達するまで措置延長ができることから、子どもの最善の利益や発達状況をかんがみて、必要がある場合は18歳を超えても対応していくことが望ましい。

・義務教育終了後、進学せず、又は高校中退で就労する者であっても、その高い養護性を考慮して、でき得る限り入所を継続していくことが必要である。

②高齢児への対応

・入所時の年齢が高くなるほど、その養護性の問題は見逃されがちだが、親からの虐待を自ら訴える子どもの存在、高校進学したくても行けなかった子どもの存在など、年齢は高くなっていても児童養護施設の養育を必要としている子どもたちへの対応が求められている。

③再措置への対応

・児童養護施設は、対象となる子どもの背景が多岐にわたっているとともに、子どもの年齢も幅広く、社会的養護を担う施設のなかでは中核的存在となっている。

・児童養護施設から里親、情緒障害児短期治療施設や児童自立支援施設などへの措置変更に際しては、そうした子どもが再び児童養護施設での養育が必要と判断された場合、養育の連続性の意味からも入所していた施設に再措置されることが望ましい。家庭復帰した場合も同様である。

・また、18歳に達する前に施設を退所し自立した子どもについては、まだ高い養護性を有したままであることを踏まえ、十分なアフターケアとともに、必要な場合には再入所の措置がとられることが望ましい。

5.養育のあり方の基本

5.養育のあり方の基本

(1)関係性の回復をめざして

・子どもにとって、大人は「共に居る」時間の長短よりも共に住まう存在であることが大切である。子どもは、「共に住まう」大人(「起居を共にする職員」)との関係性の心地よさを求めつつ自らを創っていく。

・社会的養護は、従来の「家庭代替」の機能から、家族機能の支援・補完・再生を重層的に果たすさらなる家庭支援(ファミリーソーシャルワーク)に向けた転換が求められている。親子間の関係調整、回復支援の過程は、施設と親とが協働することによって果たされる。

・児童養護施設では、多かれ少なかれ複数の子どもが生活空間を共有している。子どもと大人の関係だけでなく、子ども同士の関係にも十分に配慮したい。虐待体験や分離体験を経た子どもには、子ども同士の関係の中に力に基づく関係がみられたり、対人関係そのものを避ける傾向がみられたりする。

・児童養護施設の職員は、様々な工夫を凝らして、子ども同士の関係にも適切に働きかけなければならない。子どもは、ぶつかり合い、助け合い、協力し合うといった体験を通して、他者を信頼する気持ちが芽生え、社会性や協調性を身につけていくのである。

(2)養育のいとなみ

・社会的養護は〈養育のいとなみ〉である。子どもたちとともにする日々の生活の中から紡ぎ出されてくる、子どもたちの求めているもの、さらには子どもたちが容易には言葉にしえない思いをもくみ取ろうとするようないとなみが求められている。子どもにとっての「切実さ」「必要不可欠なもの」に気づいていくことが大切である。

・社会的養護のもとで養育される子どもにとって、その子にまつわる事実は、その多くが重く、困難を伴うものである。しかし、子どもが未来に向かって歩んでいくためには、自身の過去を受け入れ、自己の物語を形成することが極めて重要な課題である。

・子どもが自分の生を受けとめるためには、あるがままの自分を受け入れてもらえる大人との出会いが必要である。「依存」と「自立」はそうした大人との出会いによって導き出され、成長を促される。

・社会的養護には、画一化されたプログラムの日常ではなく、子どもたち個々の興味や関心を受けとめる環境が求められる。そこでは子どもの個性や能力が引き 出され、子どもが本来持っている成長力や回復力が促進される。

・子どもたちが将来に希望をもって、様々な体験を積み増しながら、夢をふくらませていくことは大切なことである。生活は、子どもにとって育ち(発達)の根幹となるものである。やがては子ども時代の生活を通して会得したこと、学習したことを意識的、無意識的な記憶の痕跡として再現していくことになる。

(3)養育を担う人の原則

・養育とは、子どもが自分の存在について「生まれてきてよかった」と意識的・無意識的に思い、自信を持てるようになることを基本の目的とする。そのためには安心して自分を委ねられる大人の存在が必要となる。

・子どもの潜在可能性は、開かれた大人の存在によって引き出される。子どもの可能性に期待をいだきつつ寄り添う大人の存在は、これから大人に向かう子どもにとってのモデルとなる。

・ケアのはじまりは、家庭崩壊や親からの虐待に遭遇した子どもたちの背負わされた悲しみ、苦痛に、どれだけ思いを馳せることができるかにある。子どもの親や家族への理解はケアの「引き継ぎ」や「連続性」にとって不可避的課題である。

子どもたちを大切にしている大人の姿や、そこで育まれ、健やかに育っている子どもの姿に触れることで、親の変化も期待される。親のこころの中に、子ども の変化を通して「愛」の循環が生まれるように支えていくことも大切である。

養育者は、子どもたちに誠実にかかわりコミュニケーションを持てない心情や理屈では割り切れない情動に寄り添い、時間をかけ、心ひらくまで待つこと、かかわっていくことを大切にする必要がある。分からないことは無理に分かろうと理論にあてはめて納得してしまうよりも、分からなさを大切にし、見つめ、かかわり、考え、思いやり、調べ、研究していくことで分かる部分を増やしていくようにする。その姿勢を持ち続けることが、気づきへの感性を磨くことになる。

子どもの養育を担う専門性は、養育の場で生きた過程を通して培われ続けなければならない。経験によって得られた知識と技能は、現実の養育の場面と過程のなかで絶えず見直しを迫られることになるからである。養育には、子どもの生活をトータルにとらえ、日常生活に根ざした平凡な養育のいとなみの質を追求する姿勢が求められる。

(4)家族と退所者への支援

①家庭支援

・被措置児童の家庭は、地域や親族からも孤立していることが多く、行政サービスとしての子育て支援が届きにくい。こうした家庭に対して施設は、その養育機能を代替することはもちろんのこと、養育機能を補完するとともに子育てのパートナーとしての役割を果たしていくことが求められている。その意味では、児童養護施設は、子どもの最善の利益を念頭に、その家庭も支援の対象としなければならない。その場合、地域の社会資源の利用や関係者との協働が不可欠である。

②退所した者への支援

・児童養護施設は、退所した者に対する相談その他の自立のための援助も目的としていることから、その施設を退所した者は支援の対象となる。家庭復帰にしても進学・就職にしても、退所後の生活環境は施設と比べて安定したものではなく、自立のための援助を適切に行うためにも、退所した者の生活状況について 把握しておく必要がある。

6.児童養護施設の将来像

6.児童養護施設の将来像

(1)施設の小規模化と施設機能の地域分散化

・今日、社会的養護を必要とする子どもたちは、ますます大きな生きづらさや困難さを抱えて、児童養護施設へ入所している。児童養護施設は、こうした子どもたちの心身の健やかな成長と、子どもたちの生きづらさからの克服を支え続けていくことが求められる。

・児童養護施設には、配慮された生活の継続性が重要である。配慮のなされた生活体験は、将来に向かって子どもの人生に豊かさを育んでいく。日常の生活では特定の養育者が個別的な関係を持つとともに、生活感と温かみを実感できる居場所が必要である。社会的養護における生活は、その環境が子ども・大人相互の信頼に足るものであることが大切である。

・児童養護施設の将来像は、平成23年7月の社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会によるとりまとめ「社会的養護の課題と将来像」のように、本体施設のすべてを小規模グループケアにしていくとともに、本体施設の定員を少なくし、地域のグループホームに移していく方向に進むべきである。

・また、家庭養護を優先する社会的養護の原則の下、児童養護施設は、家庭養護の担い手である里親やファミリーホームを支援していく。

・小規模化と地域分散化の取り組みを進めていくためには、一人一人の職員に、養育のあり方についての理解や力量の向上が求められ、また、職員を孤立化させない組織運営力の向上やスーパーバイズの体制が必要となることから、中長期的計画を立てて、地域の中で養育の機能を果たす児童養護施設への転換を目指 していく。

(2)施設機能の高度化と地域支援

・児童養護施設は、施設機能の地域分散化を図りながら、本体施設は、地域のセンター施設として、その機能を高度化させていく。

・児童養護施設では、虐待を受けたことや発達障害などのために専門的なケアを必要としている子どもの養育を行うことから、その専門性を高めていく。

・また、早期の家庭復帰を実現するための親子関係の再構築の支援、虐待防止のための親支援、地域の里親等への支援、ショートステイなどによる地域の子育て支援など、地域支援の機能を高めていく。

・ケアワークの機能に加えて、ソーシャルワークの機能を充実し、関係機関との連携を強めていく。

・親や家族から離れて生活する子どもへの、親や家族との心理的、物理的な関係の配慮や養育の過程のはからいは、子どもの生活を安心、安全の場とするために欠かせない。

続きの「第2 各論」はこちらへ

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児童養護施設運営指針

過去問

過去問

保育士試験 令和4年(2022年)前期 子ども家庭福祉 問13

次の【I群】の施設名と、【II群】の説明を結びつけた場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

【I群】
A 児童養護施設

【II群】
エ 保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養
護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行う。

保育士試験 令和2年(2020年)後期 社会的養護 問35

次の文は、「児童養護施設運営指針」(平成24年3月 厚生労働省)の「社会的養護の原理」の一部である。( A )~( C )にあてはまる語句を【語群】から選択した場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

社会的養護を必要とする子どもには、その子どもに応じた成長や発達を支える支援だけでなく、虐待体験や( A 分離 )体験などによる悪影響からの癒しや( B 回復 )をめざした専門的ケアや( C 心理的ケア )などの治療的な支援も必要となる。

【語群】
ア 分離  イ 貧困  ウ 克服  エ 回復  オ 医療的ケア  カ 心理的ケア

保育士試験 令和元年(2019年)後期 社会的養護 問38

次の文のうち、「児童養護施設運営指針」(平成24年3月 厚生労働省)において示されている「社会的養護の原理」に関する記述として最も適切な記述を一つ選びなさい。

○ 1.社会的養護は、できる限り特定の養育者による一貫性のある養育が望まれる。

  • 2(2)⑤によると、「できる限り特定の養育者による一貫性のある養育が望まれ」ています。

× 2.社会的養護における養育は、つらい体験をした過去を現在、そして将来の人生と切り離すことを目指して行われる。

  • 2(2)③によると、「虐待体験や分離体験などによる悪影響からの癒しや回復をめざした専門的ケアや心理的ケアなどの治療的な支援も必要」です。過去のつらい体験を、現在やこれからの人生と切り離すのではなく、治療的な支援とともに、安心感を持てる場所で、大切にされる体験を積み重ね、信頼関係や自己肯定感(自尊心)を取り戻していけるようにしていくことが求められています。

× 3.社会的養護における養育は、効果的な専門職の配置ができるよう、大規模な施設において行う必要がある。

  • 2(2)①によると、大規模な施設養護としてしまうのではなく、できるだけ家庭あるいは家庭的な環境での養育が求められています。

× 4.社会的養護における支援は、子どもと緊密な関係を結ぶ必要があるので、他機関の専門職との連携は行わない。

  • 2(2)⑤によると、「社会的養護の担い手がそれぞれの専門性を発揮しながら巧みに連携し合う」ことで、子どもの自立や親子の支援を目指しています。

× 5.社会的養護は、措置または委託解除までにすべての支援を終結し、自立させる必要がある。

  • 2(2)⑤によると、「始まりからアフターケアまでの継続した支援と、できる限り特定の養育者による一貫性のある養育が望まれ」ています。また、⑥では、子どもたちが社会に出てから、あるいは子どもを育てる側になったときなど、ライフサイクルを通じた支援についても言及しています。

保育士試験 平成31年(2019年)前期 保育実習理論 問152

次の【事例】を読んで、【設問】に答えなさい。

【事例】
実習生のWさん(学生、女性)は、児童養護施設への実習を控えています。施設実習を行うにあたって、施設について知っておくことが必要であると考え、「児童養護施設運営指針」を読んで事前学習を行いました。

【設問】
次の文は、「児童養護施設運営指針」(平成24年3月 厚生労働省)の一部である。( A )〜( C )にあてはまる語句の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

施設は、社会的養護の地域の拠点として、施設から家庭に戻った子どもへの継続的なフォロー、( A 里親支援 )、社会的養護の下で育った人への自立支援や( B アフターケア )、地域の子育て家庭への支援など、専門的な地域支援の機能を強化し、総合的な( C ソーシャルワーク )機能を充実していくことが求められる。

1.A:里親支援   B:アフターケア  C:ソーシャルワーク

2.A:保護者支援  B:アフターケア  C:ソーシャルワーク

3.A:里親支援   B:リービングケア  C:ソーシャルワーク

4.A:保護者支援  B:リービングケア  C:マネジメント

5.A:保護者支援  B:アフターケア  C:マネジメント

保育士試験 平成29年(2017年)前期 社会的養護 問32

次の文は、「児童養護施設運営指針」の「養育のあり方の基本」の一部である。
( A )~( E )にあてはまる語句を【語群】から選択した場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

社会的養護は、従来の「( A 家庭代替 )」の機能から、( B 家族 )機能の支援・補完・再生を重層的に果たすさらなる( C 家庭支援(ファミリーソーシャルワーク) )に向けた転換が求められている。( D 親子間 )の関係調整、回復支援の過程は、施設と( E 親 )とが協働することによって果たされる。

【語群】
ア 児童救済
イ 家庭代替
ウ 家族
エ 虐待防止
オ 地域支援(コミュニティソーシャルワーク)
カ 家庭支援(ファミリーソーシャルワーク)
キ 親子間
ク 子ども間
ケ 行政
コ 親

保育士試験 平成29年(2017年)前期 社会的養護 問34

次の【Ⅰ群】の各施設種別の運営指針の内容と【Ⅱ群】の施設種別名を結びつけた場合の最も適切な組み合わせを一つ選びなさい。

【Ⅰ群】

A  将来的には、本体施設のすべてを小規模グループケアにしていくとともに、本体施設の定員を少なくし、地域のグループホームに移していく方向が示された。

  • 児童養護施設

B  養育の基本は、子どもが養育者とともに、時と場所を共有し、共感し、応答性のある環境のなかで、生理的・心理的・社会的に要求が充足されることである。

  • 乳児院

C  施設は、高校進学などで子どもが不利益を被らないよう、施設内学校はもとより、出身学校(原籍校)や関係機関と連携しながら、対応する。

  • 児童自立支援施設

【Ⅱ群】
ア   児童養護施設
イ   母子生活支援施設
ウ   乳児院
エ   児童自立支援施設

保育士試験 平成28年(2016年)後期 保育実習理論 問156

次の【事例】を読んで、【設問】に答えなさい。

【事例】
保育士を目指している大学生Pさんは、児童養護施設への実習を控えています。実習にあたり、「児童養護施設運営指針」を読んで、事前学習を行いました。

【設問】
施設実習を行うにあたっては、事前に施設について知っておくことが必要である。次の文は、「児童養護施設運営指針」の一部である。次の( A )~( D )にあてはまる語句を【語群】から選択した場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

社会的養護を必要とする子どもたちに「あたりまえの生活」を保障していくことが重要であり、社会的養護を( A 地域 )から切り離して行ったり、子どもの生活の場を大規模な( B 施設養護 )としてしまうのではなく、できるだけ家庭あるいは家庭的な環境で養育する「( C 家庭的養護 )」と、個々の子どもの育みを丁寧にきめ細かく進めていく「( D 個別化 )」が必要である。

【語群】
ア  集団指導
イ  家庭的養護
ウ  療育
エ  地域
オ  施設養護
カ  教育
キ  個別化
ク  連携

保育士試験 平成26年(2014年) 社会的養護 問38

次の文は、社会的養護の下にある子どもの「権利擁護」に関する記述である。適切な記述を選びなさい。

○ 1.社会的養護の施設等では、子どもの気持ちを受け入れつつ、子どもの置かれた状況や今後の支援について説明する。

○ 2.子どもの意見をくみ上げる仕組みとして、施設に設置された意見箱や、苦情解決責任者、苦情受付担当者、第三者委員等を活用する。

○ 3.現在入所している子どもや退所した子どもの声を聞き、施設等の運営の改善や施策の推進に反映させていく取り組みが重要である。

○ 4.被措置児童等虐待の通報制度や、「被措置児童等虐待対応ガイドライン」に基づき、児童養護施設等の職員や里親による虐待の防止を徹底する。

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