情緒障害児短期治療施設運営指針「第Ⅰ部 総論」もついでにマスター

ここでは、情緒障害児短期治療施設運営指針そのものを掲載しました。

児童福祉法等に共通していることは当たり前として、情緒障害児短期治療施設の特有のことを太字にして、短時間で運営指針をマスターすることを目的としています。

ボリュームはありますが、児童養護施設運営指針を読んでいればほとんどが共通の内容で、太字を中心に1度読んみるだけでマスターできることを目指しています。

また児童養護施設と違うものは背景を色表示をしています。

1.目的

・この「運営指針」は、情緒障害児短期治療施設(通称、児童心理治療施設)における治療・支援の内容と運営に関する指針を定めるものである。社会的養護を担う情緒障害児短期治療施設における運営の理念や方法、手順などを社会に開示し、
質の確保と向上に資するとともに、また、説明責任を果たすことにもつながるものである。
・この指針は、心理的困難や苦しみを抱え日常生活の多岐にわたり生きづらさを感じて心理治療を必要とする子どもたちが、地域で生き生きと自信を持って生活していけるような心理治療・支援を保障するものでなければならない。また社会的養護には、社会や国民の理解と支援が不可欠であるため、施設等を社会に開かれたものとし、地域や社会との連携を深めていく努力が必要とされ、施設が持っている支援機能を地域へ還元していく展開が求められる。
・家庭や地域における養育機能の低下が指摘されている今日、社会的養護のあり方には、養育のモデルを示せるような水準が求められている。子どもは子どもとして人格が尊重され、子ども期をより良く生きることが大切であり、また、子ども期における精神的・情緒的な安定と豊かな生活体験は、発達の基礎となると同時に、その後の成人期の人生に向けた準備でもある。
・この指針は、こうした考え方に立って、社会的養護の様々な担い手との連携の下で、社会的養護を必要とする子どもたちへの適切な支援を実現していくことを目的とする。

2.社会的養護の基本理念と原理
(1)社会的養護の基本理念
①子どもの最善の利益のために
・児童福祉法第1条で「すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。」と規定され、児童憲章では「児童は、人として尊ばれる。児童は、社会の一員として重んぜられる。児童は、良い環境の中で育てられる。」とうたわれている。
・児童の権利に関する条約第3条では、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。」と規定されている。
・社会的養護は、子どもの権利擁護を図るための仕組みであり、「子どもの最善の利益のために」をその基本理念とする。
②すべての子どもを社会全体で育む
・社会的養護は、保護者の適切な養育を受けられない子どもを、公的責任で社会的に保護・養育するとともに、養育に困難を抱える家庭への支援を行うものである。
・子どもの健やかな育成は、児童福祉法第1条及び第2条に定められているとおり、すべての国民の努めであるとともに、国及び地方公共団体の責任であり、一人一人の国民と社会の理解と支援により行うものである。
・児童の権利に関する条約第20条では、「家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する。」と規定されており、児童は権利の主体として、社会的養護を受ける権利を有する。
・社会的養護は、「すべての子どもを社会全体で育む」をその基本理念とする。

(2)社会的養護の原理
社会的養護は、これを必要とする子どもと家庭を支援して、子どもを健やかに育成するため、上記の基本理念の下、次のような考え方で支援を行う。
①家庭的養護と個別化
・すべての子どもは、適切な養育環境で、安心して自分をゆだねられる養育者によって、一人一人の個別的な状況が十分に考慮されながら、養育されるべきである。
・一人一人の子どもが愛され大切にされていると感じることができ、子どもの育ちが守られ、将来に希望が持てる生活の保障が必要である。
・社会的養護を必要とする子どもたちに「あたりまえの生活」を保障していくことが重要であり、社会的養護を地域から切り離して行ったり、子どもの生活の場を大規模な施設養護としてしまうのではなく、できるだけ家庭あるいは家庭的な環境で養育する「家庭的養護」と、個々の子どもの育みを丁寧にきめ細かく進めていく「個別化」が必要である。
②発達の保障と自立支援
・子ども期のすべては、その年齢に応じた発達の課題を持ち、その後の成人期の人生に向けた準備の期間でもある。社会的養護は、未来の人生を作り出す基礎となるよう、子ども期の健全な心身の発達の保障を目指して行われる。
・特に、人生の基礎となる乳幼児期では、愛着関係や基本的な信頼関係の形成が重要である。子どもは、愛着関係や基本的な信頼関係を基盤にして、自分や他者の存在を受け入れていくことができるようになる。自立に向けた生きる力の獲得も、健やかな身体的、精神的及び社会的発達も、こうした基盤があって可能となる。
・子どもの自立や自己実現を目指して、子どもの主体的な活動を大切にするとともに、様々な生活体験などを通して、自立した社会生活に必要な基礎的な力を形成していくことが必要である。

③回復をめざした支援
・社会的養護を必要とする子どもには、その子どもに応じた成長や発達を支える支援だけでなく、虐待体験や分離体験などによる悪影響からの癒しや回復をめざした専門的ケアや心理的ケアなどの治療的な支援も必要となる。
・また、近年増加している被虐待児童や不適切な養育環境で過ごしてきた子どもたちは、虐待体験だけでなく、家族や親族、友達、近所の住人、保育士や教師など地域で慣れ親しんだ人々との分離なども経験しており、心の傷や深刻な生きづらさを抱えている。さらに、情緒や行動、自己認知・対人認知などでも深刻なダメージを受けていることも少なくない。
・こうした子どもたちが、安心感を持てる場所で、大切にされる体験を積み重ね、信頼関係や自己肯定感(自尊心)を取り戻していけるようにしていくことが必要である。

④家族との連携・協働
・保護者の不在、養育困難、さらには不適切な養育や虐待など、「安心して自分をゆだねられる保護者」がいない子どもたちがいる。また子どもを適切に養育することができず、悩みを抱えている親がいる。さらに配偶者等による暴力(DV)などによって「適切な養育環境」を保てず、困難な状況におかれている親子がいる。
・社会的養護は、こうした子どもや親の問題状況の解決や緩和をめざして、それに的確に対応するため、親と共に、親を支えながら、あるいは親に代わって、子どもの発達や養育を保障していく包括的な取り組みである。
⑤継続的支援と連携アプローチ
・社会的養護は、その始まりからアフターケアまでの継続した支援と、できる限り特定の養育者による一貫性のある養育が望まれる。
・児童相談所等の行政機関、各種の施設、里親等の様々な社会的養護の担い手が、それぞれの専門性を発揮しながら、巧みに連携し合って、一人一人の子どもの社会的自立や親子の支援を目指していく社会的養護の連携アプローチが求められる。
・社会的養護の担い手は、同時に複数で連携して支援に取り組んだり、支援を引き継いだり、あるいは元の支援主体が後々までかかわりを持つなど、それぞれの機能を有効に補い合い、重層的な連携を強化することによって、支援の一貫性・継続性・連続性というトータルなプロセスを確保していくことが求められる。
・社会的養護における養育は、「人とのかかわりをもとにした営み」である。子どもが歩んできた過去と現在、そして将来をより良くつなぐために、一人一人の子どもに用意される社会的養護の過程は、「つながりのある道すじ」として子ども自身にも理解されるようなものであることが必要である。
⑥ライフサイクルを見通した支援
・社会的養護の下で育った子どもたちが社会に出てからの暮らしを見通した支援を行うとともに、入所や委託を終えた後も長くかかわりを持ち続け、帰属意識を持つことができる存在になっていくことが重要である。
・社会的養護には、育てられる側であった子どもが親となり、今度は子どもを育てる側になっていくという世代を繋いで繰り返されていく子育てのサイクルへの支援が求められる。
・虐待や貧困の世代間連鎖を断ち切っていけるような支援が求められている。

(3)社会的養護の基盤づくり
・社会的養護は、かつては親のない、親に育てられない子どもを中心とした施策であったが、現在では、虐待を受けた子ども、何らかの障害のある子ども、DV被害の母子などが増え、その役割・機能の変化に、ハード・ソフトの変革が遅れて
いる。
・社会的養護は、大規模な施設養護を中心とした形態から、一人一人の子どもをきめ細かく育み、親子を総合的に支援していけるような社会的な資源として、ハード・ソフトともに変革していかなければならない。
・社会的養護は、家庭的養護を推進していくため、原則として、地域の中で養育者の家庭に子どもを迎え入れて養育を行う里親やファミリーホームを優先するとともに、児童養護施設、乳児院等の施設養護も、できる限り小規模で家庭的な養育環境(小規模グループケア、グループホーム)の形態に変えていくことが必要である。
・また、家庭的養護の推進は、養育の形態の変革とともに、養育の内容も刷新していくことが重要である。
・施設は、社会的養護の地域の拠点として、施設から家庭に戻った子どもへの継続的なフォロー、里親支援、社会的養護の下で育った人への自立支援やアフターケア、地域の子育て家庭への支援など、専門的な地域支援の機能を強化し、総合的なソーシャルワーク機能を充実していくことが求められる。
・ソーシャルワークとケアワークを適切に組み合わせ、家庭を総合的に支援する仕組みづくりが必要である。
・社会的養護の役割はますます大きくなっており、これを担う人材の育成・確保が重要な課題となっている。社会的養護を担う機関や組織においては、その取り組みの強化と運営能力の向上が求められている。

3.情緒障害児短期治療施設の役割と理念

(1)情緒障害児短期治療施設の役割

・情緒障害児短期治療施設(以下、情短施設と記す。)は、児童福祉法第43条の5の規定に基づき、軽度の情緒障害を有する児童を、短期間、入所させ、又は保護者のもとから通わせて、その情緒障害を治し、あわせて退所したものについて相談その他の援助を行うことを目的とする施設である。

・また、第48条の2の規定に基づき、地域の住民に対して児童の養育に関する相談に応じ、助言を行うよう努める役割も持つ。

・情短施設における心理療法及び生活指導は、児童の社会的適応能力の回復を図り、施設を退所した後、健全な社会生活を営むことができるように行う。
・治療は、心を癒す体験を積み上げながら、健全な社会生活を営むことができるようになることを目指して行う。

・生活指導は、治療的観点から、児童の自主性を尊重しつつ、安定した生活の場を提供し、基本的生活習慣を確立するとともに豊かな人間性及び社会性を養い、かつ、将来自立した生活を営むために必要な知識及び経験を得ることができるように行う。

・学校教育、学習指導は、児童がその適性、能力等に応じ、主体的に学習に取り組むことができるよう、特別な支援を行う学校教育の場を用意して行う。

・家庭環境の調整は、児童の家庭の状況に応じ、親子関係の緊張を緩和し、親子関係の再構築等が図られるように行う。

(2)情緒障害児短期治療施設の運営理念と「児童心理治療施設」の通称

・情短施設は、心理的困難や苦しみを抱え日常生活の多岐にわたり生きづらさを感じて心理治療を必要とする子どもたちを入所又は通所させて治療を行う施設である。入所治療は原則として数か月から2~3年程度の期間とし、家庭復帰、児童養護施設などへの措置変更を行い、通所、アフターケアとしての外来治療を行いながら地域で生活していくことを支援していく。
・「情緒障害児短期治療施設」という名称に関して、本来「情緒をかき乱されている」といった意味の英語 emotionally disturbed を「情緒障害」と訳したため、どういう子どもを表すのかが伝わりにくい。障害という言葉で心理的な困難を抱える子どもたちを表してよいのか、また、子どもたちや家族がその名称を嫌うなどの問題がある。また、平均在所期間が 2 年半を超えている現状で「短期」と名乗ることが誤解を与える。
・このような理由から、名称変更を求める意見が多く、当面、「児童心理治療施設」という通称を用いることができることとする。

児童養護施設入所児童等調査結果

児童養護施設入所児童等調査の記事はこちら

4.対象児童

(1)子どもの特徴と背景

・情短施設の対象は、心理的困難や苦しみを抱え日常生活に生きづらさを感じている子どもたちであり、心理治療が必要とされる子どもたちである。
・知的障害児や重度の精神障害児は、他の支援機関を検討する。発達障害児の入所は増えているが、虐待や発達障害などを背景とする問題に対する治療・支援が主となる。
・子どもの家族や退所した子どもたちは、アフターケアとしての通所や外来治療を中心とした治療・支援の対象となる。

(2)子どもの年齢等

・情短施設は、概ね学童期から18歳に至るまでの子どもを対象としている。必要がある場合は、20歳に達するまでの措置延長ができる。就学前の子どもについては、設備等の整備も含め今後検討していく必要がある。
・広い年齢層の子どもが対象であり、心身の発達や発育、成長は個々様々である。発達が滞っていたり、アンバランスである子どもも多い。
・情短施設の平均入所期間は、概ね2.5年であるが、在籍期間の長い子どももいる。
治療はできるだけ短期間で終え、家庭復帰や児童養護施設等へ措置変更することが望ましいが、子どもの状態によっては高校を卒業するまで特別な配慮のある環境が必要であることもあり、自立まで支援する必要のある子どももいる。

5.治療・支援のあり方の基本

(1)基本的な考え方

①治療の原理

・情短施設で行われる治療は、心理的困難を抱え生きづらさを感じている子どもに、まずは生きやすいと感じられる生活の場を提供することから始まる。
・それまでの生活から、例えば、周囲の人は自分を責め脅かすと感じ警戒心を解けない子どもが、この場は安全で安心できると感じられるようになるためには、一般に安全と考えられる環境を整えるだけでは足りず、その子どもに合わせた特別に配慮された生活と個別の支援が必要である。子どもはそのような環境で安全か確かめ、徐々に安心した生活を送ることができるようになり、周囲に心を開くようになる。そして、施設の中の職員や子どもたちとの生活の中で、相手や状況に合わせて自分をコントロールする力、お互いに折り合う力また人に頼り相談する力など、地域社会で暮らしていくための力を身につけていく。
・しかし、特別な配慮のある生活環境でも、眠れない、強い不安がある、些細なきっかけでパニックになる、虐待を受けたことによる後遺症などの症状がある場合は、精神科治療や心理治療を行う。また、心の動きを落ち着いて見つめることができない、自分の思いや感じたことを言葉にできないなど、人とのかかわりから学ぶために必要な能力が育っていない場合は、その力がつくような長期にわたる特別な配慮と支援を行う。
・虐待を受けた子どもは、将来の夢を持ち前向きに生きていくために、今まで生きてきた過去を振り返り、その中で生き抜いてきた自分を見出すことが必要になることが多く、そのための心理支援が必要になる。

②総合環境療法

・情短施設における治療は、福祉、医療、心理、教育の協働により、施設での生活を治療的な経験にできるように、日常生活、学校生活、個人心理治療、集団療法、家族支援、施設外での社会体験などを有機的に結びつけた総合的な治療・支援(総合環境療法)である。
・情短施設の治療の基盤は、治療的に配慮された日々の生活にある。生活支援は治療的観点からそれぞれの子どものニーズに沿ったかかわりを行う。
・治療には、教育的な支援も重要であり、教育機関とも綿密な連携を保ちながら、それぞれの子どもに応じた特別な教育支援を行う。

③治療目標

・心理療法は個人療法、集団療法など様々な技法から治療目標に合わせて組み合わされるほか、心理教育や性教育プログラムなど特別なプログラムも必要に応じて行われる。
・治療目標は子どもの状況に応じて子ども、保護者及び児童相談所等の関係者と相談しながら決めていく。それぞれの子どもの治療目標はあるが、共通の目標は、子どもの心の葛藤や混乱を和らげながら、子どもが社会の中でいきいきと自信をもって自分の生活を送れるようになることである。
・子どもへの治療は、医学的、心理学的、社会学的アセスメントに基づき、個別のニーズに沿って、説明と同意のもとに行われる。治療は、子どもの同意のみならず、保護者を治療協力者ととらえ、保護者に児童の状態及び能力を説明し治療方針の同意を得ながら進めていく。

運営指針

(2)治療の場といとなみ

①養育とは

・情短施設における養育は、治療的な観点から行われるが、養育の基本を意識することが必要である。養育の基本は、「人とのかかわりをもとにした営み」であり、「ともに成長しようとする大人」の存在がまず求められる。
・幼少期に良い人間関係を心地よく経験すると、子どもはその心地よさを保っていく。本施設には、これを経験できなかった、また継続できなかった子どもが多い。

・家庭から分離された子どもは、不安や落胆、悲しみ、苦痛、怒りを抱えながらも、安心して自分を委ねられる「おとなの存在」を求めている。養育のはじまりの時期には、子どもが大人の手助けを表面的に拒むようなことがあっても、手助けを求めたくても大人から手助けを受けることに恐れを抱いてしまう子どもの心情を理解し、慎重に関係を築いていくことが必要である。

②日常生活

・子どもたちが、安心感、安全感を抱けるような生活、雰囲気を作ることが何よりも必要である。子どもが脅かされたと感じないように、睡眠や休息が妨げられないこと、一人でのんびりできる時間空間が保証されること、できないことをやらされると感じないような日課の設定などが必要である。
・ほぼ変わらずに流れ、子どもたちが見通しを持って行動ができる日課が、安心感につながる。生活のルールは明確で公平であり、原則として職員によって対応が変わることが無いようにする。
・子どもがいきいきと自信をもって生活を送ることができるように支援することが治療的な養育の基本である。そのために、自分の生活に関して選択できる機会を多く取り入れることが必要である。
・相談できる力を養うことも生きていくために必要である。子どもが、日常生活で迷ったり困ったりした時に相談できる関係を築いていく。

③建物、設備等

・自分の居場所が確保され、安全、安心を感じることができるための工夫が必要である。いじめや支配被支配関係が起きにくいように目の届かない死角を減らすなどの工夫も考えられる。
・他の子どもたちから離れ、落ち着きを取り戻せるような空間、部屋を確保することも必要である。

④子ども集団の中での経験

・子ども集団の中に居場所を得て、「みんなと一緒」という感覚を持つ経験が、子どもの成長には欠かせない。子どもは他の子どもとのかかわりの中で、自分をコントロールし、対人関係技能を習得する。
・遊びやレクリエーション、サークル活動は、自由で創造的な思考・活動を醸成したり、単調になりがちな日常生活に潤いをもたらす。また、職員が子どもと体験や心情を共有することで、関係性の構築が図られる。
・仲間との活動を通じて集団への帰属意識を醸成するが、一方でいじめなどの人間関係上の問題を内在しやすいため、大人の配慮が必要である。
・食事場面は、人間関係形成上の大きな要素である。食卓を囲み、一緒に食べることは、コミュニケーションの基本であり社会生活を営む上で必要となる。家庭での食生活が偏っていたり、豊かでなかった子どもたちにとって、食を楽しめるようになることは治療的にも大変重要である。日々の食事の他にも調理を職員と行い周りの人に振る舞うなどの経験が子どもの成長を促す。

⑤学校教育、学習

・それまでの生育環境に恵まれず、基礎学力の不足など多くの課題を抱えている子どもにとって、主体的に学ぶ姿勢を養い、さらには高校や大学などに進学する学力を獲得することは、自尊心や自信を回復し、自立への歩みを踏み出す契機として重要な課題である。
・個々子どもの学力等に応じた教育的支援が必要であり、小集団での教育保障と習熟度別学習システムの導入が望ましい。

・退所後の進路決定に際しては、子どもの力や希望を考慮し、子どもを取り巻く状況と照らし合わせ最善の選択ができるよう支援する。
・子どもが退所後の生活にうまく適応できるように環境を調整する。
・高校生など高学齢児の場合、自立を視野に入れた疑似自立体験が行える活動プログラム及び設備も必要である。また、社会生活におけるマナーや食事場面での適切な振る舞いが身につけられるような工夫も必要である。
・治療の場における日々の暮らしの中で十分な信頼関係を構築することによって、退所後も気軽に相談でき、ときには支援してもらえるという安心感を築く。

⑥退所を視野に入れた支援

(3)治療・支援を担う人

①ケアワーカーに求められること

・施設職員は、自分自身の基準で子どもを評価的にとらえるのではなく、全体として子どもを尊重し、受け止めようとする姿勢が求められる。まず、その子の今の現実を事実として、見つめ、考え、思いやることからはじめる。
・人は自分に向けられる他者のまなざしには敏感である。欠点ばかりに目を向けず、子どもの潜在的な可能性に気づこうとするまなざしが、子どもの自尊心の回復に必須の意味を持つ。
・子どもが未来に向かって歩んでゆくためには、自分が歩んできた過去があって今があるという感覚が必要である。子ども自身の成育の過程、親の病気や不具合、施設で生活することとなった理由について、子どもが事実を受け入れ、受けとめることが必要である。そのためには、施設職員が、子どもの心情を理解し、寄り添うことが必要である。
・子どもの可能性に期待をいだきつつ寄り添うおとなの歩みは、子どもにとっての将来のモデルになる。
・施設の職員は、子どもと一緒に行動してくれる人、生活に根ざした知恵や感性をもち、ユーモアのセンスのある人、善悪の判断をきっぱりと示し、いざという時に頼りになる存在であることが望まれる。
・子どもが生きている幸せを感じられるようなさりげない配慮がこもった日常生活が営めるための創意工夫が望まれる。そのための職員間の協力、スーパービジョン、マネジメントが必要である。
・ケアワークの専門性は、現場での子どもたちとの日常生活の過程の中で子どもを理解し、より適切なかかわりを獲得し、たえず見直さなければならない。そのためには、繰り返し研修を重ね、自らの経験や行き詰まりに対しての理解や納得を得ることや、ケースカンファレンス、養育の実践と研究の並列的な推進が必要である。

②心理士に求められるもの

・情短施設の心理士に求められるものは、総合的な治療・支援の中心的な役割を担うことであり、そのために、
(a) 医師と協働して、発達的、精神病理学的観点から子どものアセスメントを行い、生活の場の様子、家族や施設の職員、子どもたちとの関係を考慮して、治療方針を考えること(ケースフォーミュレーション)、
(b) 家族、施設のケアワーカー、医師、児童相談所の児童福祉司や学校の教員など、子どもの関係者に治療方針を伝え、それぞれの支援者の子どもへの支援が齟齬がなく協働できるように調整すること(ケースコーディネート)、
(c) このような総合的な治療を進めていくこと(ケースマネージメント)、
(d) そして、子どもとどうかかわるかなどについて、ケアワーカーや学校の教員の相談にのること(コンサルテーションなどが求められる。
・心理士は、子どもや家族がどのように周りの世界を見て感じているか、そのような状況でどう振舞おうとするかを常に理解しようとする真摯な態度を保つことが基本として求められる。そして、考えるたことを相手に理解できるように伝えることが求められる。また、その子どもや家族が様々な困難や苦境の中今まで生きてきたことに対する畏敬の念を持って、かかわることが基本である。
・その上で、治療方針を立て、治療を進めるために、スーパービジョンを受けたり、研修、研究を積み重ねて、自分の実践を振り返り、専門性を高めることが必要である。

③職員のチームワーク

・治療は、多職種の専門家による協働作業であり、それぞれの専門性を生かせるようなシステム作りが必要である。
・職員はお互いに尊重し支えあい、子どもが自然と人にかかわってみたくなるような雰囲気を作り、子どもが人にかかわることを促す。そして、子どもはそのような職員の姿をモデルにし、人と協調することを身につけていく。
・特定職員による子どもの抱え込みや職員の孤立化を避けるためにも、相互補完的な関係のチームワークが必要である。

(4)家族と退所児童への支援

①家族への支援

・保護者への支援も子どもの治療には不可欠である。児童相談所や関係諸機関等と連携しながら、福祉的、心理的支援を行っていく。家族は社会的に孤立していることが多いので、親とのつながりを断たないように支援を進める。
・親を心の中でどう受けとめているかは、個人のあり方を大きく特色づける。子どもの立場に立った親子関係への理解は、子どものケアに避けられない課題である。
・社会的養護は、従来の家庭の代替だけでなく、家族機能の支援・補完・回復のための家庭支援を行う。施設と親とが子どもの養育を協働し、親子の関係が回復することを目標に支援する。また、家族が孤立せずコミュニティの一員として生活できるような支援も行う。そのような親と施設の協働の姿が、子どもたちの周りの大人たちへの安心感を取り戻し、社会参加を促す。

②退所児童への支援

・入所による治療を終えた後、通所機能や、外来機能を使って治療を続けることが必要である。また、その後も、アフターケアを行っていく必要がある。
・退所児童だけでなく、家族への支援も続け、必要に応じ学校、児童相談所などの関係機関との連携を行う。

(5)地域支援・地域連携

・情短施設は都道府県、政令市単位の広域な地域を基盤とし、児童相談所や社会的養護関連の施設との連携が必要である。
・施設のアセスメント機能、蓄積された治療・支援の知見などを地域に還元することが必要であり、様々な施設、機関へのコンサルテーション、実習の受け入れや研修会の講師派遣などを積極的に行う。
・外来機能などを充実させ、地域の子どもや家族、関係機関の相談に応じる。

6.情緒障害児短期治療施設の将来像

(1)設置推進と専門的機能の充実

・情短施設の将来像は、平成23年7月の社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会によるとりまとめ「社会的養護の課題と将来像」にあるように、各都道府県に最低1カ所、人口の多い地域では複数設置を推進する。
・情短施設は、現在、主に学童期以上の子どもを対象としているが、子どもの問題が低年齢化しており、低年齢のうちから手厚い治療をすることが重要であることから、幼児期への対応も検討する。
・情短施設はこれまで、不登校、家庭内暴力、被虐待児の心理的不調、発達障害を背景にした問題と、時代の中で注目される子どもの心の問題の治療に先駆的に
取り組んできた。これからも新たな問題に対応し治療法を開拓できる体制の充実を図る。
・情短施設は、都道府県、政令市単位の広域の中核施設として、社会的養護機関の相談を受けたり、心理支援のネットワークの中心的な役割を目指す。社会的養護の分野における心理支援のセンターとして、特別支援学校や子どもの心の診療拠点病院など他領域のセンターとのネットワークを作り、支援の幅を広げるとともに、研究や研修などを行うことを目指す。

(2)短期入所、通所機能の活用、外来機能の充実

児童養護施設や里親で一時的に不安定となり不適応を起こしている子どもを、短期間一時的に、情短施設に措置変更してケアし、落ち着きがみられるようになってから元の施設等に戻すといった短期利用も有意義である。
・通所の子どもは、施設内の分級など学校教育を利用することもできる。入所前や退所後の子どもへの支援だけでなく、地域の心理的問題の大きい子どもへの支援機能としても重要である。また、児童養護施設や里親などで心理的問題を起こしている子どもの一時的な支援の場としても活用できる。
・入所前や退所後の支援、家族への支援、また、地域の子育て支援のためにも、児童精神科の診療所を併設し、外来機能を充実させることが望まれる。社会的養護の施設の生活に詳しい医師がいることで、児童養護施設や里親の下で暮らす子どもにも適切な診療ができる。

つづきはこちら

情緒障害児短期治療施設

過去問

保育士試験 令和4年(2022年)前期 子ども家庭福祉 問13

次の【I群】の施設名と、【II群】の説明を結びつけた場合の正しい組み合わせを一つ選びなさい。

【I群】
B 児童心理治療施設

【II群】
イ 家庭環境、学校における交友関係その他の環境上の理由により社会生活への適応が困難となった
児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、社会生活に適応するために必要な心理
に関する治療及び生活指導を主として行い、あわせて退所した者について相談その他の援助を行う。

保育士試験 平成31年(2019年)前期 社会的養護 問14

次の文は、「情緒障害児短期治療施設運営指針」(平成24年3月 厚生労働省)における治療目標に関する記述の一部である。正しい記述の組み合わせを一つ選びなさい。

× A  子どもへの治療は、経験主義的アセスメントに基づき、個別のニーズに沿って、説明と同意のもとに行われる。

  • 「情緒障害児短期治療施設運営指針」5-(1)-③において、「子どもへの治療は、医学的、心理学的、社会学的アセスメントに基づき、個別のニーズに沿って、説明と同意のもとに行われる。」と記載されています。したがって問題文の「経験主義的アセスメント」という箇所は誤りです。

○ B  治療目標は子どもの状況に応じて子ども、保護者及び児童相談所等の関係者と相談しながら決めていく。

  • 「情緒障害児短期治療施設運営指針」5-(1)-③において、「治療目標は子どもの状況に応じて子ども、保護者及び児童相談所等の関係者と相談しながら決めていく。それぞれの子どもの治療目標はあるが、共通の目標は、子どもの心の葛藤や混乱を和らげながら、子どもが社会の中でいきいきと自信をもって自分の生活を送れるようになることである。」と記載されています。

○ C  治療は、子どもの同意のみならず、保護者を治療協力者ととらえ、保護者に児童の状態及び能力を説明し治療方針の同意を得ながら進めていく。

  • 「情緒障害児短期治療施設運営指針」5-(1)-③において、「子どもへの治療は、医学的、心理学的、社会学的アセスメントに基づき、個別のニーズに沿って、説明と同意のもとに行われる。治療は、子どもの同意のみならず、保護者を治療協力者ととらえ、保護者に児童の状態及び能力を説明し治療方針の同意を得ながら進めていく。」と記載されています。

× D  心理療法は個人療法、集団療法など様々な技法から保護者の意向に合わせて組み合わされるほか、心理教育や性教育プログラムなど特別なプログラムも必要に応じて行われる。

  • 「情緒障害児短期治療施設運営指針」5-(1)-③において、「子どもへの治療は、医学的、心理学的、社会学的アセスメントに基づき、個別のニーズに沿って、説明と同意のもとに行われる。治療は、子どもの同意のみならず、保護者を治療協力者ととらえ、保護者に児童の状態及び能力を説明し治療方針の同意を得ながら進めていく。」と記載されています。したがって問題文の「保護者の意向に合わせて」という箇所は誤りです。

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